2024年7月27日土曜日

【日記19】笹井宏之賞の50首〜全部任せろ

7月15日、なんとか笹井宏之賞の50首を出しました。どうにかこうにか捻り出しての50首で、潤沢にある候補の中からの選抜や削り出しではなかったので、終わったあとの砂漠化がすごく、いまだにカラカラな気がしてます。

それでというわけじゃないけど、なんだか急に小説が読みたくなって恩田陸『スキマワラシ』を本屋で買った。『六番目の小夜子』の秋や『月の裏側』の多聞みたいなキャラクターが、いろんなことに巻き込まれつつ一歩一歩迫っていく姿や展開が無性にクセになるので、今回の主人公の纐纈兄弟もすぐ好きになった。『六番目の小夜子』の時から一貫して人々の間で語られ、紡がれ、場所につき、育って、人格すら帯びていくような物語の不思議さを描いてきた(と思ってます。)恩田陸作品の魅力を久しぶりに堪能しております。


7月17日、第171回芥川賞・直木賞の発表がありましたね。候補になっていた向坂くじらさんを応援していたのですが、惜しくも受賞ならず。でも初小説、初掲載でノミネートは凄すぎる。そして、受賞してないけど行われたAnti-Trenchでの「受賞しなくてもできるスピーチ」すごく良くて、言葉を扱う危うさと、心許なさ、そして自分はどうあるべきかという向坂くじらさんの思いの詰まったスピーチでした。『いなくなくならなくならないで』とタイトルに付けたのも、言葉への懐疑のようであり信頼であり挑戦、そして挑発かもしれない。


7月24日、仕事帰りに、豪徳寺の「七月堂 古書部」さんで開催中の高塚謙太郎さんと峯澤典子さんの「夏の詩」の展示を見てきました。






展示された詩は美しく、天井から吊るされ、空調の穏やかな風を受けてゆっくりと回転してました。詩の横顔を眺めているようで、詩もまたこちらを横顔で眺めているようで、それはまるで良い関係性のようで、とても良かった。どうやら8月に開かれる夏祭りに向けてシフト調整の話し合い中に僕は入店してしまったらしく、それなのに店員のみなさんには親切にしていただき、展示の説明やフリーペーパーの紹介、ドラマ『Silent』の裏話も聞けて嬉しかったです。絶版で手に入りにくい『水版画』の実物も展示されていたので、とにかく全ページめくってこの目に映してきました。本当はもっとゆっくりとしていたかったのですが、事情あってそこそこで。終了までまだ期間もあるし、もう一回行こうかな。


7月27日、中村森『太陽帆船』を読み終えた。勧められたのがきっかけで、一気に読んでしまった。『太陽帆船』というタイトルは「太陽」が明るい印象を与えるのだけど、宇宙へ行って戻って来ない太陽帆船のことが思い浮かんで、少し寂しいタイトルかなとも思いました。

冒頭の、この歌集を代表する一首〈帆を揚げる 会いたい人に会いに行くそれはほとんど生きる決意だ〉と深くつながるタイトルであるならばなおさら。会いたい人に会いに行くことが、何光年もかかる途方もない道のりであるかのように。

そして明日は歌会。準備をしないと。詠草も徐々に集まってきています。


6月30日に父が入院し、抱えている病気が、もうどうにもならないということで、いろんなことをやらなければならず慌ただしく過ごしております。まいったなぁ、こんな真夏に。動きやすい冬だったら、もっといろんなことしてあげられるのになぁ。もっと、会社帰りに病院に寄ったりしてやれるのに、毎日暑くて、体力がもたない。七月がもうすぐ終わる。八月には退院「できる」のではなく、退院「しなきゃ」いけない。大変だ。でも、なんとかするから全部任せろと思ってやっている。


2024年7月20日土曜日

【月詠】「塔」2024年7月号


「塔」の7月号が届きました。

今月は作品2 なみの亜子選歌欄におります。


ベランダに出ていく君とすれちがう1DKにも交通はある

ん? ってする顔が以前と変わらない僕の言葉の伝わらなさも

いつだって集大成のように来る春が苦手で素っ気なくする

三月にひたした足を抜く、そっと、忘れるものは用意されてる

ヘヴンリー・マーケットにはつやつやとその日限りの明日が並ぶ

びっしりとボディーにさくら貼り付けてぽつんと待っているレンタカー

手をはなす そういう送り方でしか君に出せない、そういう手紙



今号は「七十周年記念評論賞」の掲載号でもあります。読むのが楽しみです。

2024年7月2日火曜日

【日記18】図書館〜ココア〜水無月

6月23日、久しぶりに図書館に行った。大きめの図書館だったので、雑誌コーナーで「すばる」を最新号から順番にさかのぼって、詩歌にまつわる連載を読んでいった。なんで最初から読まなかったのかというと、そうするとなんだかちゃんと最後まで読み通さないといけない気がしたから。中断してまたいつか読もうと思ったり、機会が訪れないならそのままにして置いたり、そういう自由さみたいなものと一緒に読みたい連載だと思った。本当はその連載を楽しみにして、仕事帰りに本屋に駆け込んで、その足で飲み屋によって一杯目と一緒に読み終わり、ふう、と一息つけたら最高だけれどそれはちょっと大人すぎるかなと思って。

その連載の中で紹介されていたのと、たまたま手に取った歌集の中に見つけた歌を二首ご紹介。



よき椅子に黒き猫さへ来てなげく初夏晩春の濃きココアかな/北原白秋

くれなゐの夕焼けの底に沈殿す百年前の冷めたるココア/花山多佳子



北原白秋の歌は『桐の花』、花山多佳子の歌は『鳥影』所収です。どちらも北原白秋が黒、花山多佳子が夕焼け、それぞれ色が歌のイメージを作っていて、ココアの味わいというよりはそれが持つ雰囲気によって豊かに包まれていて好きです。「百年前のココアって、もしかして初夏晩秋のココア?」なんて思ったりもしました。全然違ったらすみませんだけど、こんな夢想もできるのでたまには散策的に本を読むのも良いなと思いました。

6月27日、常盤みどり さんと みさきゆう さんによる短歌の感想を伝える企画「うたふるよる」で、これまでに作った3冊の歌集をご紹介いただきました。情熱を持って正面から感想をお伝えいただきました。本当に嬉しい。Xのスペースでの録音が残っておりますので、「うたふるよる 第十四夜」からお聴きください。

6月30日、歌会でした。テーマは6月らしく「水」で詠み込み不要の一首。選は行わず、一首鑑賞に重きを置き、8名で進めました。レジュメは水を扱った先行の名歌、水がタイトルに入った歌集を集め、詠草との比較や読みのガイドに。ちょうどタイミングよく発表されていた「水」をテーマにした短歌アンソロジー「みずつき」の鑑賞も行いました。

ちなみに僕は水からの連想で皿洗いの歌を出した。大学に入って初めて一生懸命、そしてその後卒業してもしばらく続けることになるココイチでのバイトで、深夜にしこたま皿洗いをしたおかげで皿を洗うのが好きになったので、皿洗いへの愛を詠んだ。いずれどこかで発表できたらと思います。

歌会後は、メンバーの短歌研究新人賞の応募と健闘お疲れさま会として、ケーキと水無月が出ました。歌会の日くらいだね、こんなにたくさん甘いものを食べるのは。毎月の楽しみ。笹井宏之賞へ向けての気持ちの切り替えと、茅の輪はくぐってないですが夏越の祓えができました。