早月くら『あるいはまぼろしについて』
吉村のぞみ『あったかい虚空』
12月9日、店舗での棚卸し作業のため、朝から横浜へ。1時間前くらいに駅について、カフェでトーストとコーヒーを朝ごはんにしながら、文フリで購入した早月くらさんの『あるいはまぼろしについて』を読む。
『あるいはまぼろしについて』はウェブサイト「詩客」での連載を中心にまとめられた詩歌集。表紙を開くと、遠い宇宙のような、きらきらと光沢のある紺色の遊び紙。これから始まる世界の入り口のよう。巻頭歌で、ここに書かれているものがぱっと示され、目次の前にもう水切りのひと跳ね目のように始まる。
◆好きな歌
翳りゆく窓を背にしてわたしたち言葉のはじまりを見せあった
きっかけは忘れたけれどこの秋もあなたの庭の柿の山分け
世界はとてもうるさい待合室だからどうか合図を見逃さないで
春の高架下とうつつの遠いこときみに落語を教えてもらう早月くら『あるいはまぼろしについて』
一連としてなら「氾濫/夏の薔薇」という作品が好き。
この作品から、ページの端ギリギリから詩が始まるので、めくった途端、〈過去に戻りたいか〉ときて驚く。心掴まれる。そして、巻末歌で、水切りの石が届いたような、でもそれは途方もない旅だったような、そんな感じ。石が削れてしまうほど。見た世界を言葉に変換しているというより、世界を言葉そのものとして捉えているような感じがする。言葉の意味や読みだけでない関係性で。またゆっくりと、何度も、水切りのひと跳ね、ひと沈み、水しぶきを楽しみたい。
12月10日、今日は昨日と変わって会社へ。通勤中に吉村のぞみさんの『あったかい虚空』を読んでいた。
まあるい人がカップ麺を見つめる表紙が、まるで誰かがこの歌集を開いてくれるのを待っているよう。カップ麺が出来上がるのを待つみたいに、楽しみにしつつ、ちょっと焦れつつ。
◆好きな歌
弟はひとりで世帯主となりときどき葱を買っているとか
氷穴の仕組みじゃなくて氷穴に誘っていいか聞いてるんだよ
あのねえ、で始まる電話は長くなる傾向にある(わたくし調べ)
弔という字の左右差は残された人の心のようだと思う吉村のぞみ『あったかい虚空』
◆もっとも好きな歌
ほどほどの似合うわたしだ大根を送りバントのように構えて同上
現在に近い日常の前置きがあって、学生時代を回想するように、教室や友人や恋のこと。連載マンガも初期から画風が変わるほどの月日を人と共に重ね、そして、職業詠へ。大根をバットがわりに送りバントの構えをして見せる、それが自分なんだという主体の、そしてそんな主体を描く作者の、ままならない人生への讃歌と思う。
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