今号では村上和子さんの欄で選をいただいております。
まどろんでいるかのような細い目で歩行器に身をまかす老犬
妻の手に歩行器を伝いよみがえるリード引っ張る強き脚力
逃げてください テレビの声が繰り返し犬の背中に妻はかぶさる
夜のごと黒く染まった朝市を朝日が拭おう拭おうとする
春を引け我らの腕で遥かから遠き春から春引き寄せよ
東京の雨はようやく止みたれどここではなくて一月二日
1月1日、ちょうど妻の実家に帰って夕食をいただいているときに、たまたま点けたテレビで能登半島地震を知った。「逃げてください」と繰り返していた。
被災地からは遠いところにいて、犬の散歩をしているときに地震が起こったので、全く気づくことができなかった。
歩くことが難しくなった老犬は、ようやく届いた歩行器に身を預けて、確かな足取りを取り戻したように見えた。そうか、歩きたかったんだな、歩きたかったけど歩けなかったんだな、と家族みんなで老犬を囲んで散歩をしていた。
翌日、たまらなくなって短歌を作った。
Twitterでは、「文芸には何ができるだろうか」「歌人にできることなんてない」と言った投稿がちらほらとあり、なんだ、なんで、どうして疑うんだ、どうして歌を詠まないんだ、と苛立ちを抑えられなかった。
「塔」4月号は創刊70周年記念号となっており、巻頭からドバーッと140ページほど様々な特集が続く贅沢な内容となっています。
0 件のコメント:
コメントを投稿